2014年8月31日日曜日

乙一『夏と花火と私の死体』

乙一『夏と花火と私の死体』(集英社文庫/2000年)
(Jump J Books版は1996年)

語り手「わたし」は少女の死体。若き天才の描いたジュブナイルホラーの大傑作。

――最後に、踏み台にしていた大きな石の上に背中から落ちて、わたしは死んだ。

 執筆時に十六歳、新人賞受賞時に十七歳だった著者乙一のデビュー作。作者は後に『GOTH リストカット事件』(角川書店)で第三回本格ミステリ大賞を受賞したり、最近では別名義で執筆された作品も映画化されたりと、その才能を遺憾なく発揮している。

 本作の特徴は集英社文庫の小野不由美氏による解説において「神の視点」と評されている死体による一人称で書かれている点だ。
 主人公を殺害した犯人とその兄が主人公の死体の隠し場所を探すという至極わかりやすい物語なのだが、普通の小説の場合、この「主人公」は犯人とその兄になるはずなのである。しかし前述の通り主人公(=語り手)は死体になった「わたし」である。死体であるが故に本来語ることができないのだが、著者乙一は語り手その役割を少女の死体に一任したのであった。
 背負われたり溝に隠されたり、しかし見聞きができるというこの今までになかった語り手の存在は発表されたライトノベル界にとどまらず、ホラー小説界にまで衝撃を与えた。

 だがその設定だけでは物語の世界は上手く構築できない。本作はその内容も優れている。前述の通り、この物語は殺されたわたしの死体を兄妹が隠す物語である。端的に云ってしまえばそれまでなのだが、これがスリリングで読んでいてとても面白い。
  正直に云って、最初はやはり犯人側には不味い展開である、主人公の死体を早く他の人に見つかってしまえ、と思いながら読んでいたのだが、いざ見つかりそうになると、見つかるな、と思いながらページを捲ってしまう自分がいるのだ。それにとても読み易く、140ページと元々が短めの小説ながらもっと短く感じたほどである。

 果たして「わたし」は見つかるのか。そして戦慄のラストを、是非。

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次回は『すべてがFになる The Perfect Insider』を予定しています。

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