2014年7月31日木曜日

道尾秀介『向日葵の咲かない夏』

道尾秀介『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫/2008)
(単行本は2005年刊行)

小学生が主人公のダークミステリ。この「物語」はあまりにも暗く、あまりにも哀しい。

――僕、物語を終わらせたくなったんだ。

 2011年に『月と蟹』で第144回直木賞を受賞した道尾秀介。本作『向日葵の咲かない夏』はその著者の知名度を一気に上げた代表作である。小学生ながらも子供らしくない思考や言動や行動が印象に残る主人公「ミチオ」やあまりにもブラックな作中作などといった陰惨な物語にもかかわらず文庫は100万部を超える大ヒット作となった。また、ある事件の被疑者が確保された際に所持していたことでも話題になった。
 本作は夏休みの前日、一学期の終業式から物語が始まる。ミチオは終業式に欠席したS君の家にプリントを届けに行く。が、そこでミチオに「きいきい」というおかしな音が聞こえてきた。そしてその庭にはたくさんの向日葵が咲いていた――。というのがネタバレを極力なくしたあらすじだが、もうちょっと知りたい方は文庫本の裏表紙のあらすじや新潮社のホームページにもう少しだけ書いてあるのでそちらをどうぞ。
 私がこの作品を読んだのはもう数年前だが、当時はあまり読む気になれなかった――というのも、「油蝉の声を耳にして、すぐに蝉の姿を思い浮かべる人は、あまりいないだろう。」というこの小説の最初の一文が共感できなかったからだ。もちろん小説に共感できる/できないなど関係ないのだが、この一文で私には合わないな、と思ってしまったのだ。それからしばらくして話題の本になってから読んだのだが、合わないと思ったことは誤解だったし、むしろ未だに読後感を引きずっている稀有な作品となった。
 その理由としては、物語全体に何か薄暗いベールのようなものがかかっているような気がしたのだ。上記したような小学生らしくない主人公や、さらに、ときにその主人公よりも大人びた発言をするその妹などなど少し少しの違和感が積み重なって奇妙な物語を醸し出しているのだ。それが本作特有の独特な雰囲気を演出している。今でこそ「イヤミス」という言葉があるが、本作はまだイヤミスという言葉がない時代に書かれた小説である。今出版されたとしたら間違いなくイヤミスに分類されるであろう本作だが、その範疇に収まらない程のダークな物語であり、薄暗いベールの正体を読者が知った際にはそれまで読んできた物語の景色はもちろんやその他の風景も一変してしまう。
 その点についてやラストに関しても様々な説が生まれるなど、ミステリファンならずとも作品を読んだ方の間でも賛否両論が目立つ本作なので、未読の方はあまり下調べをせずに読むことをお薦めします。ただ、上記のようにダークな物語だあることを踏まえると読む人を選ぶ小説かもしれないので少々の覚悟をして読んだほうがいいかもしれません。
 私はあろうことか本作を冬に読んでしまいましたが、絶対に夏に読むことをお薦めします。物語の登場人物と同じ季節で、同じ環境で、同じ空気で読んでいただきたい。この季節に何でもいいから何か読みたいという方がいたら手放しで薦めたいと思います。

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次回は乙一『夏と花火と私の死体』を予定しています。

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