2014年2月28日金曜日

桜坂洋『ALL YOU NEED IS KILL』

桜坂洋『ALL YOU NEED IS KILL』(2004/集英社スーパーダッシュ文庫)

ライトノベルレーベルの本格SF。繰り返す世界の驚愕の真実とは。

――ジャパンのレストランでは食後のグリーン・ティーは無料だと本に書いてあったのだが……本当なのか?

 本作はいわゆるライトノベルである。ライトノベルのイメージ――それも一般レーベルでない純粋なライトノベル――はやはり一般の小説に比べるとキャラクターが先行して物語がついて行かないイメージが強かったのだが、それは偏見だったのだ、と本作『ALL YOU NEED IS KILL』を読んで思った。確かに主人公が少年兵でヒロインも少女という点などの設定はライトノベルの主たる読者である10代前半くらいの読者が一番感情移入しやすそうな設定ではあるのだが、それが特に物語を遜色させるほど悪いということはない。云い方は悪いかもしれないがハヤカワ文庫JAあたりで出版されていてもおかしくないレベルのSFとなっている。

 SFと一口に云っても様々な種類のSFがある。本作は機動ジャケットを身にまとった少年兵が機銃やグレネードにロケットランチャ、さらにはパイルドライバや巨大な戦斧(バトルアクス)などの武器で「ギタイ」と呼ばれる未知の敵と地球の存亡を賭けて戦っていることから軍隊や侵略系のSFに分類されるだろう。
 しかしこの作品にはもう一つSFとして重大な要素がある。それが時間ループだ。
 冒頭で主人公のケイジは冒頭でギタイとの戦闘で致命傷を負う。そして死ぬならギタイと相打ちになって死のうと云わんばかりの特攻によって意識が消滅し、気が付いたときにはもう経験したはずの景色が広がっていたのだ。
 実を云うとこの時間ループの設定はネタバレに接触するかもしれないと思ったのだがこの物語はこのループを軸として展開していくため、この設定を含めて紹介しなければ嘘になると思った次第である。

 戦場。戦地でのボーイミーツガール。そして死を繰り返し続けるケイジはこのループからどうやって脱出できるのかという点が読みどころとなる今作は今までライトノベルやそのレーベルの作品を避けてきた方で例えばメタルギアや伊藤計劃の『虐殺器官』のような世界観が好きな方がいれば今すぐにでも読んでほしい作品である。そうでなくとも軍隊系・時間系のSFの入門編としても最適である作品だと思うので少しでも興味がわいたら是非読んでもらいたい作品です。

 ちなみに『ALL YOU NEED IS KILL』は『Edge of Tomorrow』というタイトル(原題)でトム・クルーズが主演での映画化が決まっており、今年公開となる。が、予告を見ただけの段階では個人的に『Edge of Tomorrow』は『ALL YOU NEED IS KILL』の設定を受け継いだ別物に見える。しかしながらこちらも楽しみにしたい。
 さらに2014.02.28現在、週刊ヤングジャンプで『ALL YOU NEED IS KILL』のコミカライズ版が集中連載されており、これは現在すべて公式サイト「となりのヤングジャンプ」で読むことができるのでこちらも参考に。ただし漫画では小説のキャラクターデザインとはだいぶ違っていたり、ケイジがなぜか時々某死神のノートを使う主人公のような極悪な表情を見せたりするのでそのような脚色を抜きにしたオリジナルを楽しみたいならやはり小説をおすすめします。

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次回は我孫子武丸『殺戮にいたる病』を予定しています。

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