2014年3月13日木曜日

我孫子武丸『殺戮にいたる病』

我孫子武丸『殺戮にいたる病』(講談社文庫/1996*)
(*単行本は1992年、講談社ノベルスは1994年)

猟奇殺人事件の犯人とそれを追う者たち。大学から始まるサイコサスペンスミステリ。

――飛び出さんばかりに見開かれた眼球に浮いた静脈の青が、鮮やかで美しいと思った。
  著者・我孫子武丸の名や小説は知らなくとも彼の手掛けたサウンドノベル『かまいたちの夜』の名を聞いたことがある方は多いだろう。さらにミステリ好きには有名だが綾辻行人や有栖川有栖や法月綸太郎などが所属していた京都大学推理小説研究会に彼らと同時期に所属していたとしても知られる所謂「新本格」ミステリ作家を代表する一人である。
 本作『殺戮にいたる病』は東西ミステリーランキングにもランクインしている我孫子武丸の代表作である。

 さてその本作だが、上記のように「サイコサスペンスミステリ」と銘打ったのは多視点のうちの一つでありメインとなる主人公が猟奇殺人を犯すからである。それゆえにグロテスクな表現が少なからず描写されているうえにそれがエロティックともいえる表現で描かれているので残酷な描写や性的な描写が苦手な方は読まないほうがいい、と断言できる。
 とはいえその優れた構成やトリックは国内ミステリを代表するものである。その特徴の一つは最初にエピローグが配置されている点だ。読者はまずエピローグを読み、殺人犯・蒲生稔の犯行の概要を知り、彼を中心とした物語を読むことになる。そして最後まで読み再びエピローグを読むことで見えていたのに見えなかったエピローグの意味を知ることになるのだ。
 トリックに関してはネタバレになるので勿論ここでは触れないが未読のあなたの想像を超える衝撃が待っていることだろう。
 また、蒲生は大学に通っているが学園ミステリという体裁は薄い。蒲生の犯行にスポットライトを当てているので学園ミステリというよりはやはりサスペンスや、また人によってはピカレスクの要素もあるかもしれないがそれはさすがに危ないだろう。
 本作の白眉となるのはやはりトリックであるがそれを紹介するわけにもいかないので、それ以外の魅力としては追うものと追われるものの群像劇が挙げられる。犯人や警察、さらに犯人の身内や被害者の身内を巻き込んでの多視点構成の群像劇は警察が事件を捜査する過程、遺族の心境、加害者心理やその加害者の身内の加害者に対する不信感などなどが織りなす物語は単なるミステリの枠にとどまらず、『ハサミ男』(リンク先は当サイト)などその後のミステリ界にも影響を与えた可能性は大いにある。
 本当は人に薦めたいけど内容を考えると薦めることができない類の作品なのだが本作の知名度やミステリの完成度を鑑みるに杞憂だと判断した次第である。出版社サイトにはホラーと銘打ってあるエログロを内包しているものの決してナンセンスではないサイコサスペンスミステリ。怖いもの見たさで読んでみてもいいかもしれませんよ。

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次回は奈須きのこ『空の境界』を予定しています。

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