2013年12月4日水曜日

貴志祐介『新世界より』

貴志祐介『新世界より』(講談社文庫/2011)
(単行本は2008年、講談社ノベルス版は2009年に刊行)

世界の真実を知りたいという幼少期のあどけない好奇心。それが悲劇と惨劇の引き金となった。

――もちろんそれは、わたしたちの思考そのものが、巧妙に誘導、管理されていた証なのだが。

 この作品のジャンルは、と訊かれると迷ってしまう。それはSF、ミステリ、ホラー、ファンタジー、アドベンチャー、恋愛……ジャンルの枠に捉えられない一流のエンターテインメントだからだ。
 現に、本作は第29回SF大賞受賞作であり、2008年のPLAYBOYミステリー大賞であり、このミステリーがすごい!2009年度版では5位、週刊文春ミステリーベスト10では9位にランクインしている。
 ディストピア小説としてのSFの要素があったり、思わぬ所でミステリの要素があったり、スプラッターや幻想的な描写は本格的なホラー小説そのものであったり、世界設定はファンタジーとして完成されていたりする。
 作者の貴志祐介は『黒い家』、『クリムゾンの迷宮』、『青い炎』、近年では『鍵のかかった部屋』や『悪の教典』などなどいずれも話題作となっているまさにヒットメーカーである。
 本作は2012年にはアニメ化及び漫画化もされた。アニメは多少省略されていたり変更されている箇所はあるものの、おおすじ小説通りであり、小説を躊躇している人はアニメから観てもいいかもしれない。一方漫画は原作を踏襲しているものの読者層向けに(?)著しく脚色されていることで小説からのファンからは否定的な声もあるが、グロテスク描写は原作通り凄まじいし、もちろん極端に話が違うわけではない。個人的には漫画にするぐらいだから多少脚色しても構わないと思う。
 さて、ジャンルが困ると上記したが、本作は徹頭徹尾ディストピア小説として成立しており、そう考えるとSFが頭ひとつ抜けているのかもしれない。
  それは、ネタバレを避けるために詳しくは書かないが作中の世界では子供たちに世界のあらゆる事情が伏せられており、まさに子供たちを管理してるという背景がある。作品冒頭で語られる「悪鬼の話」や「業魔の話」、人類が新たに手に入れた呪力(念動力=サイコキネシス)を学ぶ学校「全人学級」など大人たちは子供にごく普通に接するが、何か違和感があることに主人公たちは気づいてしまう……。そして、あるとき世界の真実を知ってしまった子供たちは悲劇に巻き込まれていくのである。
 作品は一貫して薄暗い雰囲気であり、終盤には『悪の教典』どころの騒ぎではないほどの殺戮・残虐描写が多々あるため、良く言えばスリルが堪らないがそういうことが苦手な人はトラウマになるかもしれないので心構えが必要だ。
 ただ、ラストで明かされる真実。おそらくミステリーとしてのこの作品の核である部分は驚愕とともに読者自らの認識も揺らがしかねないことであり、それまでの物語の考えを一転させてしまうものである。物語の結末に触れるので書かないが、ある登場人物が終盤に発する一言がこの作品の核であると思う。
 文庫本で合計1500ページ弱の超大作だがそれに見合った、もしくはお釣りがくるほどの物語であることは間違いない。

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次回はジョージ・オーウェル『一九八四年』を予定しています。(日時未定)

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