2013年12月11日水曜日

ジョージ・オーウェル『一九八四年』 (George Orwell/1984)

ジョージ・オーウェル『一九八四年』(ハヤカワ文庫/2009[新訳]・訳:高橋和久)
原題『1984 Nineteen Eighty-Four』(1949・英)

オーウェルが半世紀以上前に描いた超監視社会は、いまや現実のものとなっている。

――自由とは、2足す2は4だと言える自由だ。それが認められるなら、他のこともすべて認められる。
(Freedom is the freedom to say that two plus two make four. If that is granted, all else follows.)

 これは作中で主人公が日記に記す言葉だが、これが終盤で効いてくる。
 この作品が書かれたのは上記の通り半世紀前。しかし今年、この作品が大きく取り上げられる事件がアメリカで起きた。元CIAのスノーデン氏によるリークによりアメリカが同盟国も含む世界中のインターネットと電話回線を傍受していたことが発覚した事件である。これにより英語圏での本書の売り上げがAmazonだけでも7000%増えたという事だ(以下ソース)。


 この超監視社会の体裁は自ずと本作とリンクしたのであろう。本作もまた超監視社会について描かれているからだ。ただし本作は住人の一挙手一投足までもが監視されている。党に反発するものを捕えるために、だ。
 というわけでまさに今が旬な本書だがその紹介をする前に背景を記しておこう。この作品の舞台はオセアニア(Oceania)であり、この国は世界の3分の1を占める大きさだ。また、残りの3分の2を2国(ユーラシア、イースタシア)で分けているので世界には3つの国しかないことになる。また、それぞれをひとつの「党(the party)」が支配しており、他の国とは戦争状態であったり、そうでなかったりする。そしてニュー・スピークというそれまでの言語よりも単純にした言葉が公用語とされている。それに極め付きが、一家に1台壁1面のテレスクリーンがあり、それによって住たち人は前述のとおり党に監視されているということだ。これは住民が不審な行動や言動がありしだい捕えられるようにする装置であり、以前ここで紹介した『華氏451度』は住人同士が監視する「相互監視社会」が描かれていたが、本作は党が直接住民を監視している点でこちらのほうが強い管理社会である。だがもちろん隣人や家族の密告によっても捕えられるためにこちらも相互監視社会の要素があることには変わりはない。
 本作の主人公ウィンストン・スミスはその党の真理省記録局に勤務する党員であり、なんと歴史の改ざんが仕事だ。これは党にとって都合のいい過去を修正し、新聞や雑誌などすべての情報を書き換える。
 これほどの支配体制を敷いた世界でウィンストンはオセアニアを支配しているビック・ブラザー党を打ち倒そうと計画する。
 ビック・ブラザー党は完全なまでに支配しており、果たしてウィンストンは党を倒すことができるのかという点がこの小説の見どころ。いなくなる同僚や密かに現れる協力者など党の目を背いて繰り広げられるクーデターの準備、さらにその後の展開は一読の価値が大いにある。
 そしてこの作品の結びの一文は私が今まで読んだ本の中でもトップクラスの余韻をもたらした。
 冒頭ではアメリカを例に挙げたが、中国でのネットの検閲など第二のビック・ブラザーの種は世界中に植わっている。願わくばこの小説の世界が現実にならんことを。
 最後に二重思考(ダブルシンク)である党のスローガンを記す。

戦争は平和なり
WAR IS PEACE
自由は隷従なり
FREEDOM IS SLAVERY
 無知は力なり
IGNORANCE IS STRENGTH
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ビッグ・ブラザーがあなたを見ている
BIG BROTHER IS WATCHING YOU

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次回は野﨑まど『know』を予定しています。

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